旅と物語

僕は旅が好きだ。

まだ見たことのない風景を見て、その土地の風を肌で感じることが大好きだ。
食べたことのない珍しい食べ物を食べるのが大好きだ。

でも、と思う。
旅の一体何がそこまで僕の心を揺り動かすのだろう。
旅に一体何があるのだろう。

訪れるまではそこは写真でしか見たことのない場所で、知識として知っているだけにすぎない。
あくまでもそれはただの輪郭であって、血の通った何かではないのだ。

僕が思うに、それに血を通わすものは物語だと思う。
それは何でもいい。
例えば家族と昔行ったことがある場所だったり、テレビでいつか見たところだったり、恋人がそこの生まれだったり。友人と一緒に行ったこと、お土産屋のおばあちゃんの温かい笑顔、居酒屋の店員さんと楽しく話したこと、おいしいごはんを食べたこと。

そういった小さな物語が旅に彩りを、温かみを、匂いを、風を、命を吹き込んでくれる。
自分の中で物語が生まれたとき初めて、その場所は地図の中を飛び出して命の通ったものとなる。
旅の中で生まれる物語、それこそが僕が旅を好きでい続ける理由なのかもしれない。

物語というのはとても大切で、特別で、かけがえのないもので、いつか自分の前に壁が立ちふさがったときに乗り越えるための力となるだろう。

だから、僕は今日も旅をする。